「でも、まだ二年生とかでしょ。今はつまらなくても…クラス替えしたら楽しくなるかもよ。」
「そうかなあ。」
「そうだよ。」
女の子は納得していなさそうだが、僕の立場から言えることはこのぐらいしかない。
この子が学校でどんな風に過ごしているかなんて分からないし、仕方ないのだ。
ふと、空を見上げた。
夕暮れを通り越して、夜になろうとしている。
「夏だし、暗くなるの早いよ。そろそろ帰らない?」
「えーもうちょっと遊びたい…。」
「また別の日に遊ぼう。だから今日はもう帰ろ?」
「別の日って、いつ?」
「うーん、明日とか?」
「明日はだめ。×××だから。」
「え?なに?」
よく聞き取れなくて聞き返したが、女の子はそれに答えてくれなかった。
「明後日は?」
「明後日は…ごめん。明後日には僕たち帰るんだ。」
「そうなの?次はいつ来れるの?」
「次は…来年になるかな。来年の夏休み。」
そっか、と小さく言って女の子は黙り込んだ。
僕はどうしたらいいのかわからなくて、辺りを見回した。
空はオレンジ色から紺色に変わっている。
黒色になる前に、早く帰りたい。
「…ねえ、約束してくれる?」
「約束?何を?」
「前に言ったじゃん。ラベンダー畑があって、夜になると観覧車がでてきて、異世界に行けるって…。」
「ああ、言ってたね。」
「その話が本当かどうか、確かめるのに付き合うって約束してほしいの。」
「え?」
僕は困惑した。本当もなにも、そんなのあるわけないじゃないか。
「ねえ、約束してくれないなら…ここに置いてくから。」
そう言うと、女の子はまた僕を置いて走り出した。
僕はこの辺の地理に詳しくない。それに辺りはどんどん暗くなっている。
女の子にここで置いてけぼりにされたら…真っ暗な道に一人取り残され、家を求めて彷徨うことになるのだ。
女の子の姿は徐々に小さくなって、今にも見えなくなりそうだった。
僕は慌てて後を追いかける。これで何度目だろう。
はあっ…はあっ…
久しぶりに全速力で走ったせいか、息切れが止まらない。
だけど、相手は低学年の女の子だ。体力に差があるからか、数分で追いつくことができた。
僕は女の子の肩をグイと掴んだ。
「わ、思ったより速かったね。でも、ミハルのことをつかまえても無駄だよ。」
「何が無駄なの?」
「約束してくれないなら、ミハルは帰らない。ミハルが帰らないと、お兄ちゃんは困るよね。だって、道知らないんでしょ。」
「わかったよ…約束するよ。」
僕は面倒くさくなって、つい約束してしまったのだ。
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